メタルカラーの時代劇(その2)

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石川島播磨重工業 後藤 百六十八 (ごとう ひゃくろくじゅうはち)
2149年岐阜県生まれ。九州産業大学機械工学科を卒業後、石川島播磨重工業入社。宇宙戦闘機発動機部に所属中数々の名エンジンを産みだした。現在通産省技術開発部に出向し、超技術研究G主査を努める。
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1年前に出発した宇宙戦艦が、先日I星から無事帰還の途についたと発表があった。12日後に到着する予定だが、ここ地球側では放射能除去装置の受け入れ体制が秒読みに入った。異星からの超技術の解析に長年関わってきた後藤氏に苦労話と展望を語っていただいた。
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山根:石川島播磨重工業(以下石播)に入社したきっかけは?
後藤:いまの世の中圧倒的に技術者が不足してますからねえ。
山根:超技術を導入した最初の戦闘機はたしかブラックタイガー?
後藤:ええ、IIの方です。初代は純粋に既存技術です。2代目の方で重力制御技術がうまく働くようになりました。
山根:エアカーに採用されている物との違いは?
後藤:あれはパイプライン内でしかうまく飛びません。そもそも重力制御技術は、もともとあったのですが、I星からの技術支援に相当助けられて実現しました。
山根:今は戦闘機や宇宙船を大気圏離脱させることが出来る。
後藤:しかし、むこうから送られてきたFAXは妨害電波でよう使いもんになりませんでしたわ。あと、字が汚い。ご存じのとおりこちらからは返信出来ないので、一方的に受信するだけで、解析に25年費やしました。
山根:よっぽど汚い字だったんだ(笑い)。
後藤:というよりも、理解出来ない記号だった。合衆国のNASAの方で素データを加工して我々が解析という流れでやってました。
山根:一番最初は戸惑ったでしょう。なんの信号か分からなくて。
後藤:200年ほど前からNASAで地球外に向けて地球外知的生物探査をやってましたが、こんどはその逆やからね、でも信号を送るのと受信するのは同じ考えで行けるようです。
2、3、5、7、11、13..の素数を送って気付かせ横の駒数がわかれば、絵が現われて情報料は格段に増えます。きっかけがつかめたらあとはパズルを解いていくように、その次のレベル、その次のレベルと行くんですわ。なんか亀と兎足して蟹とつりあっててその脇の記号が2乗を意味する事分かって「そらピタゴラスの定理やわ」て具合に。そうやって全部解読するのに25年。
山根:学校で習ったのは正しかった(笑い)。
後藤:私の仕事はそれを技術翻訳して、要するに我々の技術に如何に取り入れるようにするかなのです。各国の工場で実際生産するわけですからね。向こうはこっちの技術レベルよう知らんようで、てこの原理からの解説から入ってましたね。それで、はずみ車、蓄電池、トランジスタ飛ばして、原子、各元素まで来て一応確認。2、3知らない元素があって研究所まわしたら、「新元素発見」だと。教えてもらっただけやのに(笑い)。ここまで10年。ほんでつぶさに調べて行くとありましたよいろいろ新発見が、特に重力制御関連。各学会での検討、実証は早かったです。
山根:宇宙戦艦に役立った?
後藤:80%は超技術です。波動エンジンを中心とした超光速航行や重力制御がメインです。えらい苦労しましたわ。例えば藤田粒子と名付けられたタキオン粒子の一種をエンジン内の炉で発生させるときの容器が破壊するんやけども、技術指導が無い。
山根:設計ミス、あるいは施工ミス?
後藤:正直いいまして、どうも分析出来ないレベルだったんですよ。我々の技術では。駆動部分や燃料系統はなんとかでっちあげて100%完成した。けれど肝心の波動エンジンそのものが作れない。困った。
山根:それは困った。で、どうやって解決?
後藤:ええ。培養容器と森山菌の相性が悪かった。向こうが指定した菌に相当するものを各地で採取しまして、いろいろ実験したのですが、能力が弱すぎて、それは電気磁気学的に増幅することで解決できたのですが、この15センチの半球の(と手に取って見せる)4万個の穴に寒天が詰まってまして発生した信号を返すと予想外の振動が起きて寒天が崩れるんです。
山根:え?波動エンジンに菌!?
後藤:あ、雄雌ありまして求愛の時に信号を発するんですけどその伝達速度が光速を超えてまして、その干渉波を利用して粒子加速器内に発生したタキオン粒子を捉えるんです。
それをうまい具合にコントロールしてチャンバーへ導く経路にその菌が使われているんです。ちなみに通信機器にも応用されてまして5万光年程度ならリアルタイムに交信できます。
山根:それは初耳。
後藤:それで、寒天の研究をしました。
山根:うーん、勉強家(笑い)。
後藤:料理研究家を訪ねたら山形に寒天職人がいるということで、そこのを使ったらうまくいった。
山根:あっさり。
後藤:しかし、それに使用する添加物が食品メーカーの特許いうんで、4000万円払える予算もありませんでしたから必要な成分を工夫して作りました。ついでに特許も申請しました。
山根:うーむ。最新鋭の宇宙戦艦の波動エンジンの中にあの寒天が使われていたとは驚き。
後藤:面白いのが菌のバイオリズムでエンジン出力が変わる、という点です。ワープ航法と呼ばれる超光速航行もバイオリズム診断で行われます。集団を一つの生物として捉え、13億個もの森田菌の78%はシンクロしますのでそのリズムを読んで、ほんで手動でスイッチを入れます。
山根:なんか医者の仕事(笑い)。
後藤:雄雌の求愛がなんといいますか絶頂になるときでないとね、タキオン粒子のエネルギーを上げた状態をコントロール出来ない訳です。波動砲なんて武器ありますがあれはまさに、いわゆる、その、エクスタシーみたいなもんですわ(笑い)。
山根:うーむ深い(笑い)。
2201年8月24日 石川島播磨重工業本社にて。    インタビュアー山根五十六真
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排水量6万2千tもの巨大な宇宙戦艦と110人の乗組員を往復33万6千光年も航行させる波動エンジンが菌のリズムで動いているとは知らなかった。
それにしても25年間も宇宙からのメッセージを分析し続けるという気の遠くなる作業には脱帽した。
後藤氏は現在、間もなく到着する宇宙戦艦の受け入れと、放射能除去装置の設置準備に取り組んでいる。ここには書けなかったが、地球再生計画が完了するといわれる10万年後、もし生きていたら太陽を浴びる地上で農場を経営したいと語ってくれたのが印象的だった。
TAMA ’98/04/28 11:18
*気付いた方もいると思いますが、時空を超える信号は、アニメ「伝説巨神イデオン」の生体発振器のパクりです。
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この記事はフィクションであり、登場する団体等とはいっさい関係ありません。