メタルカラーの時代劇(その1)

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日本住宅公団 山本 八十一 (やまもと はちじゅういち)
2155年北海道生まれ。東北大学建設工学部入学を卒業後、住友重機械工業に入社。国防省施設研究所に出向研修を経て、日本住宅公団へ移籍、環太平洋地域においての地下都市計画に携わる。亜細亜トンネルや海抜マイナス1万メートルの世界一の低さを誇る日本海溝貿易センタービル等のプロジェクトリーダーを努める。現在、NOA計画推進室々長。
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防ヶ埼ドームの天井に建設中であった宇宙連絡船信濃丸が竣工式を終えたばかりだ。当初、地球脱出船として計画が進められていたNOA計画だが、急遽、宇宙戦艦として90日後の外宇宙への出航が発表された。何でも、300日で16万8千光年を往復するとのこと。
わが国25年振りの新造宇宙船のテクノロジーに触れたいと思う。地下都市計画と宇宙戦艦との意外な接点が。
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山根:ずっと地下都市の開発計画に関わってらっしゃいますが、そもそも、地下都市って地上から地下に向けて掘っていくイメージですが、どうして大きな空洞?
山本:あれは、良く言われているとおり住民の心理的な負担を軽減させようと…。おかげさまで、この方式は世界中に普及していますよ。
山根:地下都市の閉塞感をなくして、あと100Km四方を照らせる人工照明の実用化が大空洞型地下都市を実現したと。まるでSFマンガ!(笑い)。
山本:あれは苦労しました。
山根:ところで宇宙戦艦ですが、どの辺の担当を?当初は確か脱出船だった筈..「宇宙連絡船信濃丸」で火星基地への往復ということだったと…。
山本:時期的に軍事色を出すのはマズイとのお達しがありまして(笑)、信濃丸は、まあ、コードネームみたいなもんです。それから、宇宙戦艦としての名称を公募で決める予定です。近々正式に告知しますよ。
山根:「宇宙戦艦ヤマト」とかなったりして(笑い)。丁度、戦艦大和の下に作ってますしね。
山本:それ、私も考えました(笑い)。ところで、世界各国の脱出船ってどうしてかつての沈没船の下に作るか分かります?SETI理論もご存じだと思いますが、今の人類の活動地域はかつての海底で、地上は120年前の遊星爆弾の大量飛来で一夜で壊滅しましたけども、海水は50年かけてやっと干上がったんですね。かつての地上は放射能の浸透、残留がひどくて地下2000メートルまではとても住めない。
山根:だから生き延びた人類はかつての海底に、特に海溝の地下に集中して住むようになった。でもそれと沈没船とどういう関係?
山本:標的から外れるんですよ。遺跡は。原爆も京都を外した。実際全長100m以上の沈没船、海底基地跡は地球上で9200ヶ所あるのですが、その98%は半径50km内に遊星爆弾は落ちていません。われわれも火星の遺跡には手をつけてないでしょう。
山根:かなりの確率。でも異星人がそこまで考える!?
山本:もう、それに頼るしかありません。世界人口5百万まで減りましたから。
***ドーム天井にぶらさがった宇宙船の謎とは?***
山根:ドームの天井に宇宙船の船底が見えてまして建造中から防ヶ埼ドームのシンボル的存在だった訳ですが、あれも心理的効果を狙ったとか。意気高揚の。
山本:あれは仕方なかったんです。建造の始まった頃はエンジン出力も弱く、水上発進の宇宙船だったわけです。
山根:水上?地表にはもう水は無いのに?で、それで宇宙へ飛び出せる!?
山本:水流を使って加速するのです。日本海溝とマリアナ海溝を結んで現在トンネル状の地下都市がありますが、計画当時は両海溝底にかなりの海水が残ってましてそれを利用しようと考えた訳です。その地下都市はその計画の名残なのです。
山根:でも宇宙船は海抜-200m、両海溝は海抜-2600m以上。どうやって海水を使う。
山本:サイフォンです。両海溝をトンネルで結びマグマ熱を利用したポンプで海水をトンネル内に満たし加速させると、4週間程、等速で流れ続ける。バイパスを作り地上に掘った運河に船をつかんだカタパルトを浮かして加速させる。直線距離120kmを2Gの加速度で徐々にスピードを上げて、当初は大きな翼ついてましたから、空力的にに浮力を得、エンジンの助力にするという寸法。
山根:いいぞ、そして地球脱出!風呂釜の水を洗濯機にホースで移すのはやったけど、スケールが違いすぎる(笑い)。
山本:水流と同速度なので造波抵抗も殆どない。4週間本流の流れがありますのでやり直しも効く。
山根:乗り遅れがいても大丈夫(笑い)。
山本:おまけに、緯度も低いので速度を稼げる。
山根:地球脱出速度を出すために地球の遠心力をも利用する、そのためには地軸からの距離があるほど有利ですからね。
山本:結局重力制御のできる波動エンジンが実用化したので、計画のままに終わりましたけどね。
山根:見物でしたでしょうね。打ち上げ花火いや巨大水鉄砲みたいで。
山本:見たいけど自分は残りたくないですね(笑い)。
2199年4月25日 NOA計画現場事務所にて。インタビュアー山根五十六眞
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結局宇宙船自体の話しは殆ど聞き出せなかったが、長年地下都市計画に関わってきたという経験からくるユニークで大胆な発想の、今度竣工した宇宙戦艦の計画初期段階との関わりを熱く語って下さった。ここには書けなかったが、物資不足の中、地下都市研究の最初は手掘りだったと聞く。被爆による肺癌で、インタビュー中もかなり咳こんでいた。
あとで聞いたのだが、この防ヶ埼ドームはやはりサイフォンシステムの為に掘られた様で、計画変更後、地下都市に生まれ変わった様である。父親を遊星爆弾被爆で亡くした山本さんは半生を地下都市計画に捧げてきた。インタビューを終えた1週間後、山本さんは肺癌で亡くなった。
TAMA ’98/04/25 07:10
思いつきです。
*本家「メタルカラーの時代」のあるエピソードが下敷きになっています。さあ、探してみよう!
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この記事はフィクションであり、実際の団体等とは一切関係ありません。

 

2019年1月25日追記
一部表現を修正しました。

 

1件のコメント

  1. 宇宙船宇宙船(うちゅうせん、スペースクラフト)とは、科学的探査・軍事的調査などの目的で人間を一定期間宇宙空間に滞在させるために作られた人工構造物のことである。この中には、人間の長期宇宙滞在を目的に作られた宇宙ステーションなども含まれるが、一般に宇宙船とは、 人間を安全に宇宙空間に到達させ かつ、安全

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