メタルカラーの時代劇(その3)

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新明和工業株式会社 阿部 二十万次郎 (あべ にじゅうまんじろう)
2150年滋賀県生まれ。中部工科大学航空宇宙工学科卒。新明和工業入社後すぐ、国連が中心となって運営するNOA計画に参加。地球脱出船の設計に関わる。
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先日、かねてより出航の準備を整えていた宇宙戦艦が射手座I星へ放射能除去装置を引き取りに出航した。500万の人類の期待と運命を背負い、旅立った宇宙戦艦の数々の技術にせまる。
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山根:いつから建造に関わったんですか?
阿部:12年前の87年からです。
山根:バブル絶頂期ですね。あの頃は地球は半年も持たない、なんて終末論も飛び交ってましたね。
阿部:脱出計画自体も、世相を反映してましたし、経済安定の役割も持ってましたから。
山根:でも114人乗りの宇宙船、当然何隻かあった?
阿部:約3万隻。
山根:ええ!!そんなに!!でも3万×100人としても300万人か…。当時の人口1億人の30分の1しか脱出できない。
阿部:いえいえ、脱出船そのものは当初、もっと規模が大きかった。一隻千人単位で3千万。完成時の人類の減少率や居残り組の数も考慮にいれて考えました。公称2億を唱ってました。
山根:未来は明るい、という一種の宣伝ね。
阿部:そういうことです。
山根:今、脱出を考えてる人なんてあまりいませんね。
山根:ところで不思議に思うんですけどなんで船の格好しているんですか?(と模型を手にとる)当初、水上発進型だったと聞いてるんだけど、でも、本当に上から下まで全く船。
阿部:良く質問を受けるんですが、しゃれです(笑い)。なんてのはもちろん冗談で、一番の理由は万能戦艦として、他天体への大気圏突入やらありますし…。
山根:大気との摩擦熱の為、船底に突起物をなるべく出さないように。
阿部:でもほんとは、純粋な宇宙戦艦なら唯の円柱がいいんです。細長い棒状の。大根型と呼んでますがどちらかというとごぼう型に近いんですが。艦橋やアンテナ類あると狙われ易いし、当りやすい。あれは脱出船時代の名残です。
山根:つまり前方投影面積を小さくした方が当らない。
阿部:実は3隻1組で一つの宇宙都市をつくりまして、詳しくいいますと、打ち上げは1隻づつ単独なのですが、衛星軌道上で3隻がドッキングして、さらに先に打ち上げた千人の居住ブロックをさらに接続しまして1つの大きな宇宙都市をつくる訳です。
それで、ドッキングする為の突起物が例のアンテナ類や艦橋だったのです。丁度、3隻の戦艦の背中同士をこうやって合わせるんです。で、くるくる回って重力を発生させるんです。
山根:ああ、残り2隻が、小笠原ドームと南西ドームの宇宙船だと。同型の船が3つ合わさって回転して人工重力を作ると。
阿部:そうです。
starship1.GIF
山根:それが世界中に3万隻!!
阿部:当初の計画ではそうです。
山根:船の形というのも何となく納得できたんですけど…何から何まで船ですよね。ここに錨がありますけど(と模型を手にとる)、これは?
阿部:宇宙錨です。
山根:そのままじゃないですか!!(笑い)
阿部:獲得した速度を殺すことは滅多にしませんので停泊することはないのですが、戦闘時の進行方向変えるときに、小惑星に打ち込んでダーッとまわり込むんですね。燃料いらないで済みます。その他いろいろ使えます。
山根:もともとドッキングするための構造物が甲板上の艦橋やアンテナ?類だということですが、戦艦としてはもう、必要ないのでは?
阿部:「装甲の厚い腹側」と「デリケートな背側」という風に対照的にしました。艦橋については内部にするか上部に建てるか最後まで意見が分かれまして、設計変更する時間がありませんで、ドッキングブリッジをそのまま転用することになった訳です。異星人との戦闘の形態もどのようになるか正直言って分かりません。
航行中は太陽等の恒星の輻射熱を腹側で受け、背中側の無数の放熱板より受けた熱や宇宙船内部の熱をダーッと逃がします。
山根:この羽根状のアンテナは放熱板だったと。
阿部:放熱方向が船に当らないように各々の角度に気をつけて配置しています。もっとも水中航行時の事も考えて形状を決めてありますが。
あと、アステロイド・リングシステムというものがありまして、無数の発泡セメントの塊にコントローラーを設置して飛ばし、必要に応じて甲板上を埋め尽くし装甲にする計画もありまして、ただ、原料を積めなかったので、小惑星を砕いて使用することになると思います。船体上部の弱さはこれで補います。
山根:石ころで盾をつくるんですね。城壁のように船体を覆うこともできる。
阿部:ともかく単独航行が決定してからは、どんなことがあっても大丈夫な様に、運用システムとしてはかなり柔軟性をもたせてあります。
山根:無事帰還できるといいですね。
阿部:エンジニアとして最善を尽くしました。
山根:ところで、当初の脱出計画ですが、政府の発表と違って実際は行くあてはなかったというのが大方の見方ですが…。
阿部:ええ..一応射手座方面ということになっています。現在でも。
山根:質問変えますね(笑い)。この主砲は船の下側狙えないと思うのですが..?
阿部:いい質問ですね(笑い)。戦艦自体くるくるっと簡単に回転できます。重心と波動エンジンの軸を一致させてまして、重力制御の一種でコマの様に簡単に回転できるので死角はありません。これは、作戦運用時に色々考えられます。アステロイド・リングシステムで一方向に盾を作れますのでこれの併用でなんとかなります。度重なる設計変更で宇宙戦艦としては奇異なものに仕上がりましたが、最終的にバランスは取れてる筈で、心配ありません。
山根:くるくるっとね。
2199年10月10日 新明和工業株式会社本社にて。    インタビュアー山根五十六眞
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「ダーッ」「くるくるっ」等、擬音が多く賑やかなインタビューではあったが、エンジニアの無邪気な一面をかいま見たような気がする。しかし、度重なる設計変更を着実に乗り越えてきた自信に満ちあふれた話しぶりであったのが印象的であった。
TAMA ’98/05/09 03:09
*いやー、だんだん矛盾がみえてきましたねー。